2026年7月、障害者の法定雇用率は2.7%に上がり、対象となる企業の範囲も広がりました。これを機に、初めて障害者を一人迎える――という会社が増えています。このとき、つい「どこで、どう採用するか」から考えがちですが、採用がうまくいくかどうかは、実は募集を出す前にほぼ決まります。先にそろえるべきは、社内の受け入れ準備です。準備は大きく3つ。①任せる仕事、②受け入れる人と体制、③環境と配慮の見立て。この順番で整えておくと、迎えたあとの「こんなはずではなかった」を大きく減らせます。
なぜ「採用の前」が勝負なのか
初めての障害者雇用でつまずく典型は、人を採ってから「さて、何を任せよう」「誰が面倒を見よう」と考え始めるパターンです。受け入れる側の段取りが整っていないと、本人は力を発揮する場がなく、現場も日々の対応に戸惑い、双方が疲れていきます。結果として、早期の離職につながりやすくなります。
逆に言えば、準備さえ整っていれば、採用そのものは難所ではなくなります。採用とは「準備した受け入れ態勢に、人を迎える」工程であって、その逆ではありません。だからこそ、求人に動く前の社内準備にこそ時間をかける価値があります。
採用は、整えた受け入れ態勢に人を迎える工程。順番を、逆にしない。
準備その1:任せる仕事と期待値を決める
最初に決めるのは「何を担ってもらうか」です。任せる仕事が曖昧なまま採用すると、本人も周囲も役割が分からず、評価もできません。まずは既存の業務の中から切り出せる仕事を洗い出し、半日〜1日の流れに落とし込んでおきます。仕事の切り出し方そのものに迷う場合は、業務切り出しの始め方を先に整理しておくと進めやすくなります。
あわせて言語化しておきたいのが「期待値」です。どの作業を、どのくらいの正確さ・スピードでできれば合格なのか。最初から100点を求めず、3か月後・半年後の目安を分けて置いておくと、本人にも現場にも無理がありません。仕事と期待値がはっきりしていれば、面接で見るべき点も、入社後に振り返る基準も自然に定まります。
準備その2:受け入れる人と体制を決める
次に、日常的に誰が関わるかを決めます。仕事の指示を出す人、困ったときの相談先、体調や勤怠の変化に気づく人。これらを一人に背負わせると、その人が不在のときに止まってしまい、担当者自身も疲弊します。役割を分け、複数人で見る体制にしておくと、現場は安定します。
ここで見落とされがちなのが、現場メンバーへの「最初の説明」です。何のために迎えるのか、どんな仕事を担うのか、周囲は何を意識すればよいのか。これを最初に共有しておくと、受け入れる側の不安が減り、過度な気遣いも避けられます。
なお、障害者雇用促進法では、事業主は募集・採用の段階から採用後にかけて、障害者からの相談に応じるための体制(相談窓口)を整えることが求められています。「困ったら誰に言えばいいのか」をあらかじめ決めておくことは、現場の安心であると同時に、法令上の基本でもあります。
準備その3:環境と合理的配慮の見立て
3つ目は、働く環境と配慮の見立てです。配慮には、設備や動線といった物理面と、指示の出し方・情報共有の仕方といったコミュニケーション面の両方があります。たとえば、口頭だけでなく文字でも指示を残す、作業手順を見える化する、といった工夫は、特別な投資がなくても始められます。
ただし、配慮は会社が一方的に決め打ちするものではありません。障害者雇用促進法は、過重な負担にならない範囲での合理的配慮を事業主に求めていますが、その中身は本人との話し合いで決めるのが原則です。同じ障害名でも、必要な配慮は一人ひとり違います。会社側は「何ができるか」の引き出しを準備しておき、最終的には対話ですり合わせる、という構えがちょうどよいバランスです。
準備の段階でありがちな失敗も、先に知っておくと避けられます。
- 良かれと思って環境を作り込みすぎ、本人の希望とずれてしまう
- 「障害名」だけで配慮を決め、一人ひとりの違いを見落とす
- 配慮を一度決めたら固定化し、入社後の変化に合わせて見直さない
まず、最初の一歩
明日からできることは、2つです。ひとつは、現場の業務を棚卸しして「切り出せそうな仕事」を3つ書き出すこと。もうひとつは、受け入れの中心になる担当者を仮でよいので決めることです。この2つがあるだけで、その後の採用・定着の解像度が一気に上がります。
準備が整えば、採用は怖いものではなくなります。そして、迎えたあとに「続けてもらう」ための設計は、定着設計の基本とあわせて読むと、入口から定着までが一本の線でつながります。とくに迎えたあと最初の山場となる入社して3か月、定着が試される時期については、別の記事で具体的に整理しています。はじめの一人を、自社にとっての確かな一歩にしていきましょう。
出典
- 厚生労働省「雇用分野における障害者への差別禁止・合理的配慮」(参照:2026年6月)
- 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)「障害者に対する差別の禁止と合理的配慮の提供義務」(参照:2026年6月)
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