KIMIDORIコラム / 受け入れ設計・採用
受け入れ設計・採用

決めた配慮が、現場に届かない。障害者雇用のつまずきが起きる4つの接点

KIMIDORI 編集部2026.08読了 約6分
障害者雇用で決めた配慮が現場に伝わらず起きるつまずきを4つの接点で整理するコラムのアイキャッチ画像

合理的配慮は「何を、どこまで」と、中身の議論に集中しがちです。しかし支援の現場で見聞きするつまずきの多くは、そこでは起きていません。決めた配慮が、当日その場に立つ担当者まで届いていない。この断絶が、選考や定着のつまずきにつながりやすいのです。5つの実例をもとに、情報が途切れやすい4つの接点と、いまからできる対応を整理します。

決めた配慮が、現場で消える

障害者雇用促進法が求める合理的配慮は、本人との話し合いで決めることが原則です。問題は、決めたその先です。決めた内容が窓口の担当者にとどまり、受付や面談担当、配属先の現場まで渡っていないことがあります。

これは、個々の担当者の怠慢ではありません。決めた人と、当日実行する人が違う。それなのに、情報を渡す仕組みが用意されていない。構造がそうなっていれば、誰が担当しても同じことは起こりえます。

つまずきは、配慮の中身ではなく、配慮の通り道で起きる。

支援の現場で見聞きした、5つの実例

ここで紹介するのは、統計ではなく、支援の現場で見聞きした5件の実例です。特定の企業を批判する意図はありません。どの企業でも起こりうる情報の行き違いとして、匿名化のうえで共有します。

事例A|通勤の負担が、相談の場に上がらなかった

体調の波と通勤の負担から、遅刻や欠勤が続いた方の例です。本人は「体調が悪い日は在宅に切り替えられないか」「始業時刻を後ろにずらして通勤ラッシュを避けられないか」と考えていましたが、それが企業側との相談の場に上がることはありませんでした。結果として、退職に至りました。

途切れた場所:本人の困りごとが、配慮を見直す場に届いていない。配慮の決め方・見直し方そのものについては、合理的配慮の「決め方」の基本で整理しています。

事例B|受付で、口頭での名乗りを求められた

会話に困難がある特性について、事前に支援機関を通じて企業へ共有されていた見学の例です。しかし当日、受付で名札を受け取る際に口頭での名乗りを求められ、本人は手が震え、その場で頓服薬を服用することになりました。筆談や名簿へのチェックといった方法をあらかじめ決めておけば、避けられた場面でした。

途切れた場所:外部から伝えた情報が、当日の受付担当まで届いていない。

事例C|説明資料が、手元に残らなかった

見学で、企業が用意した資料を使って業務説明が行われましたが、資料は企業側のみが使うもので、参加者には配布されませんでした。「何か質問はありますか」と声をかけられても、資料を見返しながら整理することができません。見学後に改めて提供を依頼したものの、社外秘を理由に受け取ることはできませんでした。本人は志望動機の作成や見学の振り返りを、自分のメモだけで行うことになりました。

途切れた場所:企業から本人・支援者への情報提供が設計されていない。

事例D|事前に伝えた情報が、面談担当者に引き継がれていなかった

実習に先立ち、特性と必要な配慮についての情報が事前に共有されていました。しかし当日の面談担当者にはその情報が引き継がれておらず、本人はあらためて一から説明を求められました。面談の結果、特性が合わないとして実習参加は見送りになりました。

途切れた場所:社外から受け取った情報が、社内の担当者間で引き継がれていない。見学・実習を含む採用前の準備については、採用の前にそろえる3つの準備で扱っています。

事例E|入社前の合意が、約1ヶ月後に覆った

清掃部門への就職にあたり、症状に触れるため特定の清掃業務は担当しないことを入社前に確認したうえで、雇用契約に至った例です。しかし入社から約1ヶ月後、現場からその業務を依頼されました。対応したことで症状が強まり、退職に至りました。

途切れた場所:採用時の合意が、配属先の日常運用に引き継がれていない。入社後の最初の数ヶ月に起きやすいつまずきは、入社3ヶ月の定着で整理しています。

断絶は、4つの接点で起きている

5件を並べると、情報が途切れた場所は、次の4つの接点に整理できます。

  1. 外部(支援機関・本人)から、企業の窓口へ。本人や支援機関が伝えたいことが、相談の場に上がらないまま止まる(事例A)。
  2. 企業の窓口から、当日の対応者・受付へ。窓口には届いていた情報が、当日最初に接する担当者まで渡らない(事例B)。
  3. 採用・人事から、配属先の現場へ。選考段階の共有・合意が、面談担当や配属先の日常運用に引き継がれない(事例D・E)。
  4. 企業から、本人・支援者へ(逆方向)。企業側の情報を本人・支援者に渡す流れが、そもそも設計されていない(事例C)。

共通するのは、「決めた人と、実行する人が違う」という構造です。悪意や怠慢ではなく、情報を渡す仕組みが設計されていないために、断絶は起こりやすくなります。とくに担当者が他の業務と兼務している体制では、決めることまでは何とかできても、渡す仕組みづくりまでは手が回りにくくなります。逆に言えば、接点ごとに「誰から誰へ、何を渡すか」を決めておけば、防ぎやすいつまずきでもあります。

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情報を流すために、いまからできること

4つの接点それぞれに、渡し方をひとつ決めておくことから始められます。

まず、最初の一歩

自社の採用プロセスを一度たどり、「決めた配慮が、誰の手元に渡るか」を書き出してみてください。応募から入社、配属までの流れの中で、渡す先が決まっていない箇所があれば、そこがそのまま断絶の候補になります。必要なのは、1枚の文書と、渡す相手の指定。まずはそこから始めてみてください。

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